稽古場の醍醐味はあくまでも、稽古場ならではのもの。
決して表には出ない、あくまでも稽古場でのみのもの。
それはいわゆる、間違いや失敗。
げんこつ作品のシーンはだいたいが滅茶苦茶な内容ですが、その分、登場人物は真剣そのもの。
またその展開も傍目には全て滅茶苦茶ながら、登場人物たちにとっては、深刻このうえないもの。
加えて稽古は、常に真剣勝負であります。
ふざける者、てきとうにやる者など、居るわけがありません。
ふざける時、てきとうにやる時など、あるわけがありません。
それは確実に、皆様の想像以上に、ないのです。
しかしそうであれどうであれ、稽古において間違いや失敗は起きます。
そしてそれは、そうであるからこそ、たまりません。
いたって真面目に台詞を言っているのに途中で突然滑舌が悪くなり、
いったい何を言っているのか分からなくなる。
そんなことはザラです。
真剣な登場人物の口から突然聞こえてくる、
フランス語なんだかロシア語なんだか分からない言葉。
或いは、滑舌の危うさにより、突如聞こえてくる謎の言葉。
先日も、比較的深刻な状況下のなか厳しい面持ちで、
「…ちんすこうが出来たじょ」と言いながら、軍人が登場してきました。
そんな台詞は書いた覚えがありません。
いったい何をしに来た、どんなキャラなのか。
まったく分かりません。突如の謎キャラ登場です。
ちなみに彼女は急遽の代役でしたので、
彼女の場合はもう、「ちんすこうの人」でよしとしましょう。
ちなみに本来の台詞は、「…寝室の用意が出来たぞ」でした。
或いは、意を決して振り返ると、話しかけるべき人物が何故かそこに居なくなっていたり。
まだまだ死ぬべきタイミングでないのに、早々に銃撃されてしまったり。
逆にもう死ななきゃいけないのに、なかなか銃撃されなかったり。
もしくは、私が台本において「山本さん」と「岡本さん」を書き間違えており、
人の会話や動きが、あれよあれよと有り得ないことになったりします。
とんちんかんです。
そんな時、共演中の者も、それを見ている者も、ポカンとする他ありません。
突如フワッと宙に浮く、ハテナ空間。
これぞ稽古場でしか体験出来ない、稽古場の醍醐味です。
まだ日の浅い稽古場では、このような予想外のとんちんかんが、時折、展開されるのです。
たまりません。
きっと色んな稽古場で、このようなとんちんかんが展開されているのだろうと思うと、
いてもたってもいられません。
しかしいくらたまらないとは言え、それを「ネタ」にしようとは思わないので、
これはあくまでも門外不出の出来事であり、また、大抵5分で忘れます。
この愛おしいとんちんかんは、同時に忌むべきとんちんかん。
忘れ去られるべきとんちんかん。儚いとんちんかん。
さあ、このとんちんかんが完全に失われてからが、勝負です。