あの肖像画には実際に、鼻くそと鼻毛がありました。
※『ボリショイ・ライフ』公演後に公開する「あらすじ」です。
●『ボリショイ・ライフ』あらすじ
●『ボリショイ・ライフ』全シーンの「あまりあらくないすじ」
●『ボリショイ・ライフ』全シーンの「全くあらくないすじ」
『ボリショイ・ライフ』あらすじ
あらゆる社会問題に対し世界中の人々が真摯に立ち上がったものの、
巨大化したそれが行き着いた先は、どうしようもないものだった。
あらゆる社会運動は、有酸素運動と化してしまった。
4人の群舞であるマーシャは、プリマを夢見てパッセで貧しい家を飛び出す。
現象である家族のために10年間牢屋に入っていたサントスは、現象によって海に投げ出される。
彼らがそれぞれ出会うは、何でも信じる夫アハドと、嘘しか言えない妻アースラ。
反政府に燃えるアミル、かわいいものに囲まれていないと死んでしまうニーナ。
ペッティングしか能のない夫ダニエルと、夫を誇りに生きる妻ソフィア。
そして、どこにでも居る平凡な男キヨシと、
世界でたった1人、この世界のニュースを聞かされる井上さん。
懸命に生きる彼らとは一切関係なく、世界は動く。
江東区に拠点を置く反政府運動の「ヒラタ」の活動とも一切関係なく、世界は変わる。
たった1人真実を知る井上は「私は何も知らない」と自分を騙す。
マーシャはプリマを諦め就職をする。恋人も出来る。しかしその恋人とは一切近づけない。
「ヒラタ」の前身「道野商会」の道野社長は、かつて政治犯として投獄されていた。
減り続ける謎の数字。
海辺の町や村にて、自分を見失う者、すでに見失っている者の織りなす、ボリショイ・ライフ。
『ボリショイ・ライフ』全シーンの「あまりあらくないすじ」
視聴率が完全なるゼロパーセントを記録した放送局。
いまや世界のニュースは、誰にも届かない。
ひとときの浮気を楽しむ女が訪れた夢の国の夢のキャラクター、
そのお面の裏には恐ろしい現実が隠されていた。
「14,998,230」謎の数字が少しずつ減る。ボリショイ・ライフ、開幕。
ロシア僻地の貧しい島に産まれた娘、マーシャは、プリマを夢見るも今はまだ群舞。
4人の群舞のマーシャとして、バレエのことだけを夢見て生活している。
貧しい両親は履くだけで途端に姿勢も重心もガタガタになる靴しか持たず、
プリマを目指してパッセで島を飛び出して行くマーシャを追うことさえ出来ない。
チリ僻地の貧しい家に産まれた青年、サントスは、愛する家族を養うために10年間のプレ懲役を終えた。
治安の悪いその地ではあらゆる性犯罪が横行。
そのニュースを伝えるニュースキャスターは、たった1人の視聴者を求めてスタジオを抜け出す。
治安の悪さをかいくぐりやっと家に帰ったサントスを待っていた家族は、皆、現象。
その自らの罪深さに怯えつつも、異常気象を巻き起こして家を出ていく母さんと、自殺してしまう父さん。
サントスは海に放り出される。
中国僻地の貧しい村に住む青年ピンチュンの両親は手と足しかなく、弟もすでに首無し。
妹にまともになってと泣きつかれ、ピンチュンもようやく自分の全てを売り払うことを決意する。
その道中、どこにでも居るごく平凡な男、キヨシとすれ違う。
さて、その世界各地の家には、ある男の肖像画が飾られている。
あらゆる社会問題に対し、立ち上がり声をあげた世界各地の人々。
その「運動」は、国境を越え民族を越え、混乱の末、ようやく世界をひとつにした。
「有酸素運動」となることで。
その偉大なる指導者は、世界中の人々のために、日夜、健康的なダイエットに励んでいる。
そんな政府に怒りを露にするのは、アラブに住む、アハドとアミルという男。
そのアハドの妻であり、アミルの妹であるアースラは、嘘しか言えない。
4人のマーシャの1人はここに流れ着いた。
4人だったマーシャは1人であることに耐えられず、その辺の浮浪者3人と共に4人のマーシャとなる。
アースラは、ことごとく嘘しか言えない自らに苦しむ。そこには何故か、お侍が居る。
どこにでも居るごく平凡な男、キヨシは、どこにでも居る。海深くを進む潜水艇の中にも居る。
その潜水艇は、漂流する小舟を助けた。
海に身を投げたニーナという瀕死のフランス娘は可愛いものに囲まれていないと死んでしまう。
同じく救出されたというアメリカ夫妻のダニエルとソフィアは、
神のもとに結ばれた夫婦として常にペッティング中。
トラブルにより攻撃を受ける潜水艇。立ち上がるも役に立たないダニエル。
潜水艇はコントロールを失う。
再び1人になったマーシャのもとに3分後のマーシャがやってきて、
これから起きる「大きな気づき」の心の流れを前もって全部説明。
マーシャは全てがピンと来なくなる。
江東区では、井上さんと呼ばれる娘が、反政府団体の「ヒラタ」で働いている。
反政府暴動についての会議中、謎の数字が減っていく。
これまでもちょいちょい減っていた数字だが、ここで一気に減り始め、やがて数字は「5」になる。
井上のせいでリーダーは射殺され、彼女は気配を消して逃げていく。
しかし逃げた先に待っていたのは、映像から抜け出したニュースキャスター。
全本土が戦争状態となったニュースを、キャスターは井上だけに告げて去っていく。
再びマーシャのもとに現れるのは、10分後のジョアンナ。
ペプチド工場では疲れきった工員たちが束の間の夢を見る。
それを見張る恐ろしい軍曹は、地面に埋まっている。
それに反旗を翻す工員菊池も、地面に埋まっている。
埋まっている彼らを置いて、工場から逃げ出す工員たち。
そこに突如鳴り響くサイレン。
それは出兵のサイレン。
軍隊はスリムアップをしながら出兵していく。
「冷えとむくみ」に向けられたというミサイルの爆音が、遠くで響く。
それを目撃したマーシャのもとに、反戦を訴える井上がやってくる。
しかしマーシャには何のことか分からない。
誰にも何のことか分からない。
嘘しか言えぬアースラは青年ハーシムにありとあらゆる罵詈雑言をぶつける。
井上のもとには、女性キャスター達がやってくる。
彼女らは無理やり井上を起こし、
「ほのぼのニュース」と「今日のニュース」を告げて去っていく。
自らの嘘に恐れをなすアースラだが、
アハドは何の疑いもなく自らの死をも受け入れる。
自らの全てを売り払ったピンチュンは、完全にもとの姿を失い、
なんだかよく分からないピンチュンとして帰ってくる。
ハーシムはアミルの部屋の肖像画に鼻くその落書きを見つけて狼狽する。
アミルの妻アイシャは、別の肖像画に鼻毛の落書きを見つけて狼狽する。
マーシャは「海はもう要らない」と窓を持ってくる。
ピンと来なくなったプリマへの夢を捨てて、就職を決意したことをアミルに伝える。
その窓の外の海では、潜水艇が打ち上がる。
落書きがアミルの仕業だと疑わぬハーシムとアイシャは、
政府の潜水艇の突然の登場に慌てふためき、アミルを切り立った崖から突き落とす。
ニュースキャスターは井上を無理やり起こし、再びニュースを伝える。
ジョギングする者は見つけ次第に射殺されるとのこと。
「私だけじゃなく皆にそれを伝えて」と必死に懇願するも無視される井上。
取り残された井上の目の前を、打ち上げられた潜水艇を探すマーシャが、ジョギングする。
愛するニーナを探すサントスが、ジョギングする。
愛する夫ダニエルの死を嘆く妻ソフィアが、ジョギングする。
潜水艇に同乗していた夢の国のお面をつけた男も、ジョギングする。
次から次へとやってくるジョギングを止めようと必死に追いかける井上だが、無惨にもライフルの音が響く。
「俺がニーナのために世界中をかわいくする」と誓ったサントスは、その銃弾に倒れる。
サントスの死体と共に浜辺に取り残され呆然とする井上の後ろで、数字は「5」から「4」に減る。
時は経ち、ずっと閉ざされていた檻の鍵が、遂に開けられる。
全ての肖像画は「ダニエル」の肖像画に代わっている。
マーシャは両親に靴を送るために就職。しかし今やかわいさの時代。
靴を送りたくも配達員は、かわいさしか届けない。
そこは、反政府団体の「ヒラタ」の前身「道野商会」の事務所。
そこに、政治犯で捕らえられていた道野社長が檻から解放され、やっと帰ってくる。
反戦の旅をしていた井上も、やっと帰ってくる。
ついでに外回りに行っていた野中も、やっと帰ってくる。
道野社長はかつて、残業する社員達のために、ご自慢のお手製おはぎを振る舞って投獄された。
道野商会が今、売っているのは「媚び」。日本の「媚び」の輸出量は世界第三位。
今やそんな時代だと聞き、無骨な男、道野社長は引退を決意。
しかしその姿はとてもかわいく、かわいい親会社の佐々木に、無理やり連れていかれる。
「私はなんにも知らない」という姿勢を貫く井上。
肖像画の男「ダニエル」は、潜水艇の中でたった1人、悪の政府軍に立ち向かった偉大な英雄。
それを信じるマーシャと、信じるふりをする井上。
窓の外には、昆布といちゃつく男。
そこを訪れるは、どこにでも居るごく平凡な男キヨシを探して放浪する、どこにでも居るごく平凡な家族たち。
道野の妻がやってくる。
その妻は、かつてからあまり家に帰らなかった夫のせいで、2人に増えている。
夫を疑い続けたその妻は、全てを疑うことしか出来なくなった。
投獄されている間、道野社長は囚人仲間におはぎを振る舞っていた。
おはぎを大量に作り続けた。
しかし今や残されたおはぎは、道野の妻が持ってきた3つのみ。
道野社長が再び捕まったショックにより2人に増えた社員関口は、そのおはぎを口にする。
すると何故か数字は減る。
遂には数字は「1」になり、混乱した街には暴動が起き始める。
何もかもを疑う道野の妻たちに、何も知らないのは嘘だと指摘された井上は、
完全に自分を見失って、そこを立ち去る。
道野社長は、いまやおはぎの作れない身体になってしまった。
大事にとっておいた最後の1つは、愛する息子に届けたい。
息子も父を信じられなくなり、顔を見せることはなくなった。
しかし親会社の佐々木は道野をグッズ化することしか頭にない。
まずはお弁当箱から。
マーシャには恋人がいた。
ずっと舞台の奥に隠れていた。
マーシャに一切近づくことの出来ない彼、タカアキは、それでも愛を誓い、結婚を申し込む。
道野社長はなんとか息子におはぎを渡してきた。
あとは食べてくれるかどうか。
社長はあの数字がおはぎの数を現していると知り、祈るように数字を見つめる。
1人は寂しいマーシャは、タカアキの愛に心が揺れる。
共に両親に靴を送ろうと言われ、タカアキとの結婚を決意しかけた時、
やっと放送再開したテレビが伝えるのは、世界一のプリマとなったマーシャ・アリモアのワールドツアー。
自分とは別のマーシャが、煌びやかに舞う様子を呆然と眺める、マーシャ。
自分とは別のマーシャは、すでに両親に大量の靴をプレゼントしていた。
マーシャはタカアキを殺し、地面に埋まってしまう。
そのとき数字は「0」になる。
道野社長のみが喜び、世界は混乱し暴動の渦に巻き込まれていく。
戻ってきた社員たちには、マーシャが何故埋まったのか、道野が何故喜んでいるのか、まったく分からない。
分からないままに、ただサイレンが鳴り響く。
道野社長のもとには、息子ミチヒコが空になったおはぎの包み紙を持ってやって来る。
それは度々現れていた夢の国のお面の男。
しかしそこには何故かお侍が居た。
出会えないままの父と息子。
暴動のなか息子に会いに走る道野社長は捕らえられ、グッズ化され、お弁当箱にされる。
『ボリショイ・ライフ』全シーンの「全くあらくないすじ」
視聴率が完全なるゼロパーセントを記録した放送局。
いまや世界のニュースは、誰にも届かない。
ひとときの浮気を楽しむ女が訪れた夢の国の夢のキャラクター。
そのお面の裏には恐ろしい現実が隠されていた。
「14,998,230」謎の数字が映る舞台にて、ボリショイ・ライフ、開幕。
ロシア僻地の貧しい島に産まれた娘、マーシャは、プリマを夢見るも今はまだ群舞。
4人の群舞のマーシャとして、バレエのことだけを夢見て生活している。
貧しい両親は履くだけで途端に姿勢も重心もガタガタになる靴しか持たず、
プリマを目指してパッセで島を飛び出して行くマーシャを追うことさえ出来ない。
チリ僻地の貧しい家に産まれた青年、サントスは、愛する家族を養うために10年間のプレ懲役を終えた。
これで懲役10年分の罪なら何でも犯し放題。
意気揚々と強盗に勤しむも、治安の悪いその地では、
セカンド・レイプ、サード・レイプ、ショート、ライト、センター・レイプが横行。
自らのポルノをこれでもかと見せつけ復讐するリベンジ・ポルノが溢れている。
増加する女性への性暴力に対しては、女性を「女性」ではなく「昆布」とする運動も起きているものの、
出汁も取れず何も巻かないのでは、昆布も役立たずと罵られるのみ。
そのニュースを伝えるニュースキャスターは、たった1人の視聴者を求めてスタジオを抜け出す。
治安の悪さをかいくぐりやっと家に帰ったサントスを待っていた家族は、皆、現象。
碌に働かず酒に溺れ暴力を振うエル・ニーニョ父さんと、それに耐えるラ・ニーニャ母さん、
熱風の弟フェーンに、近づくとき音が高くなり遠ざかるとき音が低くなる弟ドップラー。
その家族はエル・ニーニョの暴力によりすでにバラバラで、
愛するラ・ニーニャさえ、ヒート・アイランドというどこの馬の骨だか分からない現象と浮気をしている。
その自らの罪深さに怯えつつも異常気象を巻き起こして家を出ていくラ・ニーニャ母さんと、
日本を冷夏にしてしまう自らの罪に耐えきれないエル・ニーニョ父さんの自殺により、サントスは海に放り出される。
中国僻地の貧しい村に住む青年、ピンチュンの両親は、手と足。
自らの身体を切り売りして生活を支えた末、母は手、父は足だけとなり、弟チーリャオは首無しに。
やはり身体を売って生活を支える妹チェンチューに、役立たずと罵られ、まともになってと泣きつかれ、
ピンチュンはようやく、自分の全てを売り払うことを決意する。
その道中、どこにでも居るごく平凡な男、キヨシとすれ違う。
さて、その世界各地の家には、ある男の肖像画が飾られている。
深刻な格差社会、極度の貧困、横行する差別と暴力。そのあらゆる社会問題に対し、
立ち上がり声をあげた世界各地の人々。その「運動」は、拡大した。拡大すべくして、拡大した。
そしてその「運動」は、国境を越え、民族を越え、やがては世界をひとつにした。「有酸素運動」として。
混乱し収拾のつかなくなっていた社会運動を、
軽快なリズムとステップでひとつにまとめあげるという奇跡を成し遂げたのは、
その肖像画の男、エロビクスチャンピオンのサン・ジョリン。
彼は偉大なる指導者として、世界中の人々のために、日夜、健康的なダイエットに励んでいる。
加圧トレーニングに励むスリムアップ政府からやっと送られてきた配給は、スリムアップ食品ばかり。
そんな政府に怒りを露にするのは、アラブに住む、アハドとアミルという男。
大事な友人を強制エステで全身脱毛されたアハドは、
小顔マッサージを受けてぐったりする弟分ハーシムを抱え、遂には最大の禁忌であるオヤツを決意する。
たとえ全てのセルライトを消されようとも。
そのアハドの妻であり、アミルの妹であるアースラは、嘘しか言えない。
4人のマーシャの1人はここに流れ着いた。
4人だったマーシャは1人であることに耐えられず、
その辺の浮浪者3人と共に4人のマーシャとなって、途端に自分を見失う。
そうして裏社会で一発当てることを夢見るも、浮浪者に利用されるだけで、用無しとなれば当然捨てられる。
アースラは、ことごとく嘘しか言えない自らに苦しむ。夫のアハドは何でも信じる純粋な男。
特に愛するアースラの言葉は彼にとって全て真実。
そのせいで大事な兄と夫を仲違いさせ、愛する夫に怪我をさせてしまったアースラ。
彼女は涙ながらに、愛する夫、愛するはずの夫に、改めて愛を誓う。そこには何故か、お侍が居る。
どこにでも居るごく平凡な男、キヨシは、どこにでも居る。海深くを進む潜水艇の中にも居る。
その潜水艇は、漂流する小舟を助けた。
海に投げ出されたサントスは、海に身を投げたニーナという瀕死のフランス娘を連れている。
サントスは、そのニーナの小舟に助けられた。ニーナは可愛いものに囲まれていないと死んでしまう。
サントスは、大きなリボンを頭につけて懸命に可愛く振る舞い、家族のための全財産をうさぎのポーチにつぎ込む。
サントスは、ニーナを愛して途端に自分を見失う。
そこで同じく救出されたというアメリカ夫妻のダニエルとソフィアは、
神のもとに結ばれた夫婦として常にペッティング中。
熱くなった船内の温度を2、3度下げようとした船員は、誤って味方の潜水艇に向けて魚雷を発射する。
その攻撃を受けた先の潜水艇にも勿論、キヨシは居る。
反撃を受け危機的状況となった船内で、
ペッティングしか能がないながらも正義感は人一倍のダニエルが皆を救おうと命をかけて操縦室に向かうも、
ペッティングしか能がないので直ちに失敗。潜水艇はコントロールを失う。
浮浪者に捨てられ1人になったマーシャは、窓の外の海を眺める。
そこにやってくるもう1人のマーシャは、3分後のマーシャ。
これから起きる「大きな気づき」の心の流れを前もって全部説明。
なので3分後のマーシャも、その全てがピンと来ていない。
当然、今のマーシャも、その全てがピンと来ないまま。
江東区では、井上さんと呼ばれる娘が、反政府団体の「ヒラタ」で働いている。
かつて社長が政治犯で捉えられたというその社内で、
「大豆ペプチド」が何なのかに妙にこだわるリーダー平田と、会社員風である団員達が、
反政府暴動についての会議中、謎の数字が減っていく。
これまでも、ちょいちょい減っていた数字。
それがここに来て、頻繁に減っていく。そうしてやがて数字は「5」になる。
活動と所在地が政府にバレたという連絡を受けた平田は井上に逃げるよう指示するが、
暴動を楽しみにする井上はそれを拒否。
「悪いことをしていない、全ては世界中の人のためを思ってのこと、
平田さんはいい人だから酷いことなどされるはずがない。」
あらゆるSNSで活動を拡散した井上は、悪気無くそう力説する。
しかし当然ながら、平田は政府の軍人に射殺される。
目の前で尊敬する上司が射殺されるという思わぬ展開に、井上は気配を消して逃げていく。
気配を消して逃げた先に待っていたのは、映像から抜け出したニュースキャスター。
潜水艇の謎の攻防戦の結果、
スリムアップ政府はダイエットの最大の敵である「冷えとむくみ」に対して宣戦布告を告げ、
それによって全本土が戦争状態となった。
そのニュースをキャスターは、井上だけに告げて去っていく。
アミルを探すマーシャのもとに現れたのは、10分後のジョアンナ。
10分後の死を伝えにくるも、相手を間違ったまま他界。
ペプチド工場では大豆のペプっとした所をチドっとさせる作業に疲れきった工員たちが束の間の夢を見る。
それを見張る恐ろしい軍曹は、地面に埋まっている。
それに反旗を翻す工員菊池も、地面に埋まっている。
埋まっている彼らを置いて、工場から逃げ出す工員たち。そこに突如鳴り響くサイレン。
それは出兵のサイレン。
スリムアップ効果のあるスリムアップ手袋をした兵隊達が、スリムアップをしながら出兵していく。
冷えとむくみに対して向けられた爆音が、遠くで響く。
それを目撃したマーシャのもとに、「戦争反対」のプラカードを掲げた井上がやってくる。
大きなリュックを背負い、反政府と反戦を訴えて旅をしているらしい井上は、必死の形相で訴える。
しかしマーシャには何のことか分からない。誰にも何のことか分からない。
誰にも信じてもらえずに、疲れ果て浜辺に倒れる井上。
出兵の音を聞きつけ、その浜辺にやってくるアハドとアースラ。
怪我の治りかけたアハドを気遣うアースラは、ほぼ完治したアハドの足を見てこう言う。
「酷いことになっている、二度と帰って来られないような遠い遠い病院に入院するか、
足を付け根からバッサリ切断するしかない、いや全身を真っ二つに切断するしかない。」驚くアハド。
そこにやってくるハーシム。アースラは思わぬハーシムの登場に驚き、ありとあらゆる罵詈雑言をぶつける。
次から次へと口から溢れ出てくる、とてつもなく汚い言葉。
その浜辺で倒れる井上のもとには、女性キャスター達がやってくる。
彼女らは平手打ちで無理やり井上を起こし、
「ほのぼのニュース」と「今日のニュース」を告げて去っていく。
自らの口から出る嘘に恐れをなすアースラに、
アハドは何の疑いもなく自らの足を、いや全身を真っ二つに切断しようと笑う。
それは嘘なのだとアースラは必死に首を振るも、口から出てくる言葉は、「お願い、そうして。」
中国の貧しい家では、妹が兄の帰りを待っていた。
自らの全てを売り払ったピンチュンは、完全にもとの姿を失い、
なんだかよく分からないピンチュンとして帰ってくる。
反政府団体「ヒラタ」と連絡がつかなくなったアミルは、反政府活動への道が完全に絶たれたと嘆く。
ハーシムはその部屋の肖像画の鼻の下に鼻くその落書きを見つけて狼狽する。
アミルの妻アイシャは、別の肖像画に鼻毛の落書きを見つけて狼狽する。
そこに海の見える窓を持って、マーシャがやってくる。
マーシャは「海はもう要らない」と言い、ピンと来なくなったプリマへの夢を捨てて、
就職を決意したことをアミルに伝える。その窓の外の海では、潜水艇が打ち上がる。
落書きがアミルの仕業だと疑わぬハーシムとアイシャは、
政府の潜水艇の突然の登場に慌てふためき、アミルを切り立った崖から逃がそうとする。
アミルの気高き反政府の精神のシンボルに、この鼻くそと鼻毛を掲げて。
何のことやら分からぬまま、アミルは崖から突き落とされる。
井上の倒れる浜辺に再びニュースキャスターがやってくる。
平手打ちにて井上を無理やり目覚めさせ、再びニュースを伝える。
それは、政府軍が「冷えとむくみ」の攻撃に無惨にも敗退したというもの。
そのため現在は全世界が「冷えとむくみ」の統治下にあり、カロリーの消費は一切禁止。
特にジョギングに対しては、見つけ次第、射殺されるという。
「お願いだから、私だけじゃなく皆にそれを伝えて」と必死に懇願するも無視される井上。
その取り残された井上の目の前を、打ち上げられた潜水艇を探すマーシャが、ジョギングする。
打ち上げられた潜水艇から抜け出し、愛するニーナを探すサントスが、ジョギングする。
同じく、愛する夫ダニエルの死を嘆く妻ソフィアが涙ながらに、ジョギングする。
同じく、潜水艇に同乗していた夢の国のお面をつけた男も、ジョギングする。
次から次へとやってくるジョギングを止めようと必死に追いかける井上だが、無惨にもライフルの音が響く。
「俺がニーナのために世界中をかわいくする」と誓ったサントスは、その銃弾に倒れる。
そこから逃げ出そうとする井上を無理やり押し戻し、ニュースキャスターが臨時ニュースを伝える。
「冷えとむくみ」は「冷えとむくみ」によって死に絶えた。
これからは、自由で平穏な日々が訪れる、とのこと。
サントスの死体と共に浜辺に取り残され呆然とする井上の後ろで、数字は「5」から「4」に減る。
時は経ち、ずっと閉ざされていた檻の鍵が、開けられる。
全ての肖像画は「ダニエル」の肖像画に代わっている。
マーシャは両親に靴を送るために就職した。
しかしバレエ衣装から事務員風の服装になったマーシャの頭には大きなリボン。
その社では、皆が頭に大きなリボンをつけている。上司は皆にかわいくしろと命令する。
今やかわいさの時代。かわいさが社会全体を支えている。
靴を送りたくも配達員は、かわいさしか届けない。
そこは、反政府団体の「ヒラタ」の前身「道野商会」の事務所。
そこに、政治犯で捕らえられていた道野社長が檻から解放され、やっと帰ってくる。
反戦の旅をしていた井上も、やっと帰ってくる。
ついでに外回りに行っていた野中も、やっと帰ってくる。
投獄されていた道野社長、「ヒラタ」の団員だった野中、関口、坂下、井上が揃う。
野中は井上に、平田の行方を問う。井上は「私はなんにも知らない」という返答を貫く。
道野社長はかつて、残業する社員達のために、ご自慢のお手製おはぎを振る舞って投獄された。
世界に巻き起こる社会現象、サントス現象。今やかわいさの時代。
そんななか、道野商会もかわいらしく併合され、今、売っているのは「媚び」。
日本の「媚び」の輸出量は世界第三位。政治家も国民も皆かわいらしいだけの世の中。
通貨単位も「キュート」に変わった。
今やそんな時代だと聞き、無骨な男、道野社長は引退を決意。
しかしその姿はとてもかわいく、かわいい親会社の佐々木に、無理やり連れていかれる。
かつて浜辺で会ったはずのマーシャにも、「私はなんにも知らない」という姿勢を貫く井上。
肖像画の男「ダニエル」はいまや世界の大英雄。
潜水艇の中でたった1人、悪の政府軍に立ち向かった偉大な英雄。
それを信じるマーシャと、信じるふりをする井上。
窓の外には、昆布といちゃつく男。
急に訪れるは、どこにでも居るごく平凡な男キヨシを探して放浪する、
どこにでも居るごく平凡な家族たち。
社には道野の妻がやってくる。
その妻は、かつてからあまり家に帰らなかった夫のせいで、2人に増えている。
夫を疑い続けたその妻は、全てを疑うことしか出来なくなった。
投獄されている間、道野社長は囚人仲間におはぎを振る舞っていた。
そこには、何を大それた事をしでかそうとしたのか、プレ無期懲役中の男と、プレ死刑囚の男が居た。
道野社長は彼らと共に、おはぎを大量に作り続けた。
しかしプレ無期懲役の男は獄中で老死、プレ死刑囚の死刑は執行。
今や残されたおはぎは、道野の妻が持ってきた3つのみ。
道野社長が再び捕まったショックにより2人に増えた社員関口は、そのおはぎを口にする。
すると何故か数字は減る。遂には数字は「1」になり、混乱した街には暴動が起き始める。
何もかもを疑う道野の妻たちに、何も知らないのは嘘だと指摘された井上は、
これまでになく取り乱し、やがて完全に自分を見失い、「小保方さん」となってそこを立ち去る。
道野社長は、いまやおはぎの作れない身体になってしまった。
大事にとっておいた最後の1つは、愛する息子に届けたい。
息子とは投獄される前からずっと会っていないという。
息子も父を信じられなくなり、顔を見せることはなくなった。
しかし親会社の佐々木は道野をグッズ化することしか頭にない。まずはお弁当箱から。
マーシャには恋人がいた。ずっと舞台の奥に隠れていた。
マーシャに一切近づくことの出来ない彼、タカアキは、72億人に1人の奇病、マーシャアレルギー。
しかしそれでも愛を誓い、結婚を申し込む。
道野社長は親会社の佐々木からなんとか逃れ、息子におはぎを渡してきた。
あとは食べてくれるかどうかだ。そして社長を追ってきた社員らと合流。
社長はあの数字がおはぎの数を現していると知る。
1人は寂しいマーシャは、タカアキの愛に心が揺れる。
共に両親に靴を送ろうと言われ、タカアキとの結婚を決意しかけた時、
やっと放送再開したテレビが伝えるのは、世界一のプリマとなった、マーシャ・アリモアのワールドツアー。
共に島を出た別のマーシャが、煌びやかに舞う様子を呆然と眺める、マーシャ。
別のマーシャはすでに、両親に大量の靴をプレゼントしていた。大喜びの両親。
呆然としたままのマーシャは、タカアキの前に仁王立ちしてタカアキを殺す。
そうして、地面に埋まってしまう。そうして、数字は「0」になる。
数字を祈るように見つめていた道野社長のみが喜び、世界は混乱し暴動の渦に巻き込まれていく。
戻ってきた社員たちには、マーシャが何故埋まったのか、道野が何故喜んでいるのか、まったく分からない。
分からないままに、ただサイレンが鳴り響く。
道野社長のもとには、息子ミチヒコが空になったおはぎの包み紙を持ってやって来る。
それは度々現れていた夢の国のお面の男。しかしそこには何故かお侍が居た。
お侍の登場により、出会えないままの父と息子。
暴動のなか息子に会いに走る道野社長は捕らえられ、グッズ化され、お弁当箱にされる。